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きょうふじょう

恐怖城 他5編

佐左木 俊郎

線上閱讀佐左木 俊郎《恐怖城 他5編(きょうふじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 143,735 字 · 290 頁

青空文庫

弥生子を嫌っているのではなかった。弥生子の全生活を包んでいる空気を嫌っているのだった。それはもはや、好き嫌いの程度ではなく、彼の全人格を揺り動かして生まれた感覚であった。彼は彼の全人格をもって弥生子を嫌い、弥生子を包んでいる空気を否定していた。彼は早晩のこと、その養家を逃げ出そうとさえも考えていた。

しかし、そこに一つの未練があった。専制的独裁はその掌の中の制度を、もっとも容易に変革することができるからである。掌を返すように、全然反対の制度へと、容易にそれを変革することができるからである。もし彼が、弥平氏の養子として前田鉄工場の支配権を継ぐなら、自分が全然否定しているところのその工場の待遇制度を、全人格的に肯定できる待遇制度へと変革することができるからであった。それを未練として、彼はその不快な空気の中に弥生子の将来の夫として止まっているのだった。

賢三郎は養父弥平の前では、なにも言わなかった。言っても無駄だと思っているからであった。しかし、彼はその裏面では常に不平を持っていた。そして、自分の意見に耳を傾けてくれる者に対しては、養父弥平のとっている態度のいっさいを否定し、自分の意見を述べることがあった。