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あいとにんしきとのしゅっぱつ
愛と認識との出発
倉田 百三
線上閱讀倉田 百三《愛と認識との出発(あいとにんしきとのしゅっぱつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 64,420 字 · 129 頁
豪い哲学者もこうして忘れられてゆくのだと思ったときオブスキュリチーに慄える君を思い出して痛ましく思わずにはいられなかった。いつしか迫ってくる夕闇に、墓場を辞して火燈し頃のO市に帰った。帰宅するまえ例のカフェに寄った。例の娘に「おまえ、大西博士を知ってるの」と聞いたら黙って頭を振った。天に輝く星を眺めておお涼しいこととでも思ってるのであろう。博士はとうとう美しき彼女には知られぬであろう。
暗い暗い、気味悪く冷たい、吐く気息も切ない、混沌迷瞑、漠として極むべからざる雰囲気の中において、あるとき、ある処に、光明を包んだ、艶消しの黄金色の紅が湧然として輝いた。その刹那、顫い戦く二つの魂と魂は、しっかと相抱いて声高く叫んだ。その二つの声は幽谷に咽び泣く木精と木精とのごとく響いた。
君と僕との離れがたき友情の定めは、このとき深く根ざされたのであった。思えば去年私が深刻悲痛なる煩悶に陥って、ミゼラブルな不安と懊悩とに襲われなければならなかったとき、苦しまぎれに、寂しまぎれに狂うがごとき手紙をば幾回君に送ったことであろう。親類を怒らせ、父母を泣かせて君が決然として哲学の門に邁進したとき、私の心は勇ましく躍り立った。