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あいとにんしきとのしゅっぱつ

愛と認識との出発

倉田 百三

線上閱讀倉田 百三《愛と認識との出発(あいとにんしきとのしゅっぱつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 64,420 字 · 129 頁

青空文庫

あらゆる因襲的なる価値意識より放たれて、裸のままにほうり出されたる一個の Naturkind として、鏡の如き官能を周囲に向けてみよ。大きな蒼い円味を帯びた天はわれらの頭上に蔽い被ぶさって、光をつつんだ白雲はさりげなく漂うてる。平らかな堅い地はほしいままに広くわれらの足下に延びて、水は銀のごとくきらめき流れる。風の落ちた大原野に、濡れたる星は愁わしげにまたたけば、幾千万の木葉はそよぎを収めて、死んだように静まり返る。そしてわれらのうら寒い背をかすめて永遠の時間が足音を忍んでひそかに移り行くのを感ずるとき、われらの胸にはとりとめのない寂寥が影のように襲うであろう。眼前に眉を圧して鬱然として反り返る大きな山は、今にも崩れ落ちてかぼそい命を圧し潰しはすまいか。ああわれらは生きている。ほそぼそと溜息を漏らしつつ生きているのだ。われらの生命の重味を載する二本の足のいかに心細くも瘠せて見ゆるではないか!

このとき来ってわれらに絶大なる価値を迫るものは認識である。われらが認識するという心強き事実である。主観を離れて客観は成り立たない。万象はことごとくその影をわれらの官能の中に織り込んでいる。