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あいけいでん

愛卿伝

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《愛卿伝(あいけいでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 頁

青空文庫

歌が終った時ぶんには、皆の眼に涙が光っていた。趙を載せて往く舟は、門の前に纜を解いて待っていた。

趙は酔に力を借って別れを告げて舟へ乗った。愛卿は趙を送って岸へ出て、離れて往く舟に向って白い小さい手端を見せていた。

趙はやがて大都へ往った。往ってみると尚書は病気で官を免ぜられていた。趙は進退に窮して旅館へ入り、故郷へ引返そうか、仕官の口を探そうかと思って迷っているうちに、数ヶ月の日子が経った。

一方故郷の方では、旅に出た我が子の身の上を夜も昼も心配していた趙の母親は、その心配からまた病気がちの体を痛めて、病床の人となった。愛卿は人の手を借らずに、自分で薬を煎じ、粥をこしらえて母親に勧め、また神にその平癒を祈った。

「あの子は、どうしたというだろう、何故便りがないだろう」

母親は愛卿の顔を見るたびに、こんなことをいって聞いた。

「なに、今に何か言ってまいりますよ、それとも官が定ったので、御自分でお迎えにきていらっしゃるかも判りません、御心配なされることはありませんよ」

愛卿はしかたなしにいつもこんなような返事をして慰めていたが、自分でも母親以上に心配していた。