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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《我が家の楽園(わがやのらくえん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 頁

青空文庫

と必死になって振り切りにかかった。賢夫人は手をゆるめずに、

「あなたのお話をうかがっていると、シュラーが一週間も前から東京にいることを、まるっきりごぞんじなかったみたいだけど、そうなんですか?」

と無慈悲な追い討ちをかけた。ヘンリ清水は切羽詰ってヤケになり、扇子で胸もとをあおぎながら、

「ええええ、まるっきり」

とフテ腐ったような返事をした。

「着いた日も知らせないところを見ると、あなたが吹聴するほど、シュラーに信頼されていたわけでもないのね、底が知れたわ……それで、シュラーは、いまどこにいるんです?」

「知りませんねえ。入国管理局が手をつくして探しているくらいだから、あたしなどにわかろうわけはないが、心当りなら、ないことはありません……想像ですが、むかしの関係で、隣家の太田の親子が、早いとこ、とりついてしまったんじゃないか……ミドリという娘は、シュラーのために頭がおかしくなったくらいで、そういうおさまりになる因縁は、たしかにあるんだから」

千々子さまは椅子から身体を起して、しとやかにお笑いになった。

「あなた、それは聞きちがいじゃないのかしら……お隣家のミドリさまが、頭が変になるほど熱中していたのは、ワニさんとかエルマンさんとかいう、煤黒い比島人のほうだったのでしょう?」