輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
あるおんなのしゅき
或る女の手記
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《或る女の手記(あるおんなのしゅき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,447 字 · 37 頁
私もそれに引きこまれてお辞儀をしてしまった。それから、私は俄にぞっと全身に慄えを覚えた。今迄と違って、妙に真剣なものが感じられたのである。駆け出そうとしたが出来なかった。自分の足が非常に重く思われた。私は歯を喰いしばって歩き続けた。彼が私の後から常に七八歩の間隔を保ってついてきた。漸く家の前まで来て、私が門の中へはいると、彼も中へはいって来た。私が玄関に立った時、此度は不思議にも――否この方が不思議ではないのだけれど――、玄関の方へやって来る彼の足音が、門内の砂利の上にはっきり聞えた。私はもう堪らなくなった。後ろをふり返る余裕も、靴をぬぐ隙もなかった。靴のままいきなり上に飛び上って、奥の室へ駆け込んだ。義姉さんがお仕事をしていられる傍に、兄さんは褞袍を着て寝転んでいられた。
「お坊さんが!」と私は一声云ったきり、其処につっ伏してしまった。
兄さんにはすぐそのことが分ったらしかった。褞袍をぬぎ捨てると、玄関へ出て行かれた。私は上半身を起して玄関の方へ耳を澄した。暫くすると……ああやはり本当だったのだ! 誰かに話しかけてる兄さんの声が聞えた。その声に義姉さんも喫驚して立ち上られたが、すぐにまた坐って私の靴をぬいで下すった。