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げさくざんまい

戯作三昧

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《戯作三昧(げさくざんまい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,807 字 · 42 頁

青空文庫

年のころは六十を越していよう。鬢の毛が見苦しく黄ばんだ上に、眼も少し悪いらしい。が、痩せてはいるものの骨組みのしっかりした、むしろいかついという体格で、皮のたるんだ手や足にも、どこかまだ老年に抵抗する底力が残っている。これは顔でも同じことで、下顎骨の張った頬のあたりや、やや大きい口の周囲に、旺盛な動物的精力が、恐ろしいひらめきを見せていることは、ほとんど壮年の昔と変りがない。

老人はていねいに上半身の垢を落してしまうと、止め桶の湯も浴びずに、今度は下半身を洗いはじめた。が、黒い垢すりの甲斐絹が何度となく上をこすっても、脂気の抜けた、小皺の多い皮膚からは、垢というほどの垢も出て来ない。それがふと秋らしい寂しい気を起させたのであろう。老人は片々の足を洗ったばかりで、急に力がぬけたように手拭の手を止めてしまった。そうして、濁った止め桶の湯に、鮮かに映っている窓の外の空へ眼を落した。そこにはまた赤い柿の実が、瓦屋根の一角を下に見ながら、疎らに透いた枝を綴っている。

老人の心には、この時「死」の影がさしたのである。が、その「死」は、かつて彼を脅かしたそれのように、いまわしい何物をも蔵していない。