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おしかけにょうぼう

押しかけ女房

伊藤 永之介

線上閱讀伊藤 永之介《押しかけ女房(おしかけにょうぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,073 字 · 22 頁

青空文庫

と、そのとき、佐太郎は一人の若い女が長い手綱をとつて、馬のあとから作場路をこつちにやつて来るのに気ずいた。馬は間違いなく、佐太郎の家のもう十歳以上になつたはずの前二白の栗毛であつた。馬耕から代掻えと四十日にわたる作業で疲れた馬は、ダラ/\と首を垂れた恰好で、作場路から佐太郎の家の屋敷畑の方に入つて来た。

その栗毛の手綱をとつている若い女の姿を、もう一度たしかめるように見やつた佐太郎は、次の瞬間、

――あツ。

と、声に出さずに叫んでいた。それは初世にちがいなかつたからである。

だが、また直ぐに、佐太郎は自分の眼を疑つた。自分の家とは身でも皮でもない赤の他人の隣村の娘である初世が、自分の家の仕事の手伝いに来るはずがない。と言つて、佐太郎の家よりも大きい百姓である初世の家で、初世を日雇稼ぎに出すはずもない。それが、佐太郎の家の栗毛の馬を曳いて、佐太郎の家の方にやつて来たのである。これはいつたい、どうしたことだろう。

佐太郎は焼きつく眼で見守つた。

初世はもうスツカリ大人びている。菅笠のかげの頬は、烈しい作業のせいで火のように紅く炎えている。その黒くうるんだ眼にも変りがない。