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おしえとたびするおとこ
押絵と旅する男
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《押絵と旅する男(おしえとたびするおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,416 字 · 35 頁
そういう事も今になって考えて見ると、甚だ奇怪に感じられるのである。
私は、四十歳にも六十歳にも見える、西洋の魔術師の様な風采のその男が、段々怖くなって来た。怖さというものは、外にまぎれる事柄のない場合には、無限に大きく、身体中一杯に拡がって行くものである。私は遂には、産毛の先までも怖さが満ちて、たまらなくなって、突然立上ると、向うの隅のその男の方へツカツカと歩いて行った。その男がいとわしく、恐ろしければこそ、私はその男に近づいて行ったのであった。
私は彼と向き合ったクッションへ、そっと腰をおろし、近寄れば一層異様に見える彼の皺だらけの白い顔を、私自身が妖怪ででもある様な、一種不可思議な、顛倒した気持で、目を細く息を殺してじっと覗き込んだものである。
男は、私が自分の席を立った時から、ずっと目で私を迎える様にしていたが、そうして私が彼の顔を覗き込むと、待ち受けていた様に、顎で傍らの例の扁平な荷物を指し示し、何の前置きもなく、さもそれが当然の挨拶ででもある様に、
「これでございますか」
と云った。その口調が、余り当り前であったので、私は却て、ギョッとした程であった。