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ぶんだんむかしばなし

文壇昔ばなし

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《文壇昔ばなし(ぶんだんむかしばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,802 字 · 20 頁

青空文庫

何かの会合の崩れで、近松秋江、長田幹彦、私、それに樗陰が加わって、神楽坂の待合で遊んだことがあったが、誰も懐中は乏しかったので、翌朝連名の手紙を女中に持たせて矢来の新潮社に無心を申込んだことがあった。樗陰が一枚加わっていて、どうして新潮社に申込んだのか、その間の事情は思い出せないが、とにかく樗陰がいたことだけは確かである。幹彦氏や私の売り出しの時分で、「この御両人の名があれば大丈夫貸してくれますな」と秋江がいったが、果して使いは直ぐ金を持って帰って来た。この時の外に樗陰と待合に泊った記憶は一つもない。原稿を頼みに来る時、樗陰は必ず人力車を飛ばして来、俥を待たせたまま私を玄関に呼び出して、立ち話で用を足すとまた直ぐさっと出て行ってしまう。めったに上り込んで座敷へ通ることはなかった。私の方からも西片町の彼の家をしばしば訪ねた覚えはあるが、彼は決してお上り下さいとはいわなかった。玄関の板の間に座布団を出して私を坐らせ、自分は畳の方にいて、通せん坊をするように膝を乗り出して話を聞く。時にはそんな風にして一時間以上もしゃべり続ける。こっちから出かけて行くのは、どうせ原稿料の前借りをする時に決っていたが、或る時、多分借り越しが重なっていたのでもあろう、「ではこうして下さい」