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ぶんしのせいかつ

文士の生活

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《文士の生活(ぶんしのせいかつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,660 字 · 8 頁

青空文庫

此間或る人が来て、天井を張る紙を上げましょうと云って呉れたが、御免を蒙った。別に私がこんな家が好きで、こんな暗い、穢い家に住んで居るのではない。余儀なくされて居るまでである。

娯楽と云うような物には別に要求もない。玉突は知らぬし、囲碁も将棊も何も知らぬ。芝居は此頃何かの行掛り上から少し見た事は見たが、自然と頭の下るような心持で見られる芝居は一つも無かった。面白いとは勿論思わぬ。音楽も同様である。西洋音楽のいいのを聞いたら如何か知らぬが、私は今までそう云う西洋音楽を聞いた事の無い為か、未だ一度も良い書画を見る位の心持さえ起した事は無い。日本音楽などは尚更詰らぬものだと思う。只謡曲丈けはやって居る。足掛六七年になるが、これも怠けて居るから、どれ程の上達もして居ない。下がかりの宝生で、先生は宝生新氏である。尤も私は芸術のつもりでやって居るのではなく、半分運動のつもりで唸るまでの事である。

書画だけには多少の自信はある。敢て造詣が深いというのでは無いが、いい書画を見た時許りは、自然と頭が下るような心持がする。人に頼まれて書を書く事もあるが、自己流で、別に手習いをした事は無い。