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ぶんがくにおけるこうそうりょく
文学に於ける構想力
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《文学に於ける構想力(ぶんがくにおけるこうそうりょく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,267 字 · 11 頁
私小説は嘗て、日本に於ける自然主義の末裔として隆盛を来した。自然主義から脱け出そうとした作家の多くが私小説を書いたことは、事実であるが、自然主義の所謂人生記録の尊重は、各作家の理念傾向を超えて、私小説を暗々裡に支援した。この支援が、現在に至るまで絶無とは言えない。
何かの嫡子にせよ、或は何かの末裔にせよ、ほんとの文学作品をという声に応じて、新たな私小説の抬頭が仄見える。日本では元来、指示することよりも歌うことが喜ばれる。新たな私小説は歌おうとしている。そしてこの歌は、敗戦国民の感傷的な哀歌に堕落する恐れが、果してないであろうか。
低級な私小説はともかく、高級な私小説に於ては、嘗て人生記録が尊重されたように、少しく改名して、人間記録が尊重されるかも知れない。この人間記録は、その基盤として人間一般を持つと共に、その制約として作者自身を持つ。人間一般は、結局のところ誰でもない。指示を本質とする散文芸術に於て、誰でもないことは空疎を意味する。作者自身による制約は、結局のところ観照に終始する。観照は創造性を去勢させる。
人間記録などという言葉に、吾々はもはや甘やかされはしない。