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ぶんがくのたいしゅうかろんについて

文学の大衆化論について

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《文学の大衆化論について(ぶんがくのたいしゅうかろんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,505 字 · 15 頁

青空文庫

このように通観して来ると、現在文学の大衆化を云々している作家の現実の中でも、まだまだ作家と大衆との間に実に大きい生活的な距離があり、大衆性そのものも十分に究明されていないことが分るのである。日本近代社会がその推移の過程で引き裂いた文化面のこの無惨な亀裂を今日性急に主観的にとび越え、埋めようとするところから、或る意味では従来の反動として、市民的日常性への無条件降服のきざしが作家の間に生じている。この傾向は、特に、日本の文化が置かれている今日の事情に照らして、軽々に賛同出来がたいものをもっているのである。

人間的なものの美と価値とを、異常な場合の中に発見しようとして来た過去の文学に対して、人間的なものを、一般平凡、普遍なものの中に発見し評価してゆこうとするのが昨今の傾向である。文学語から日用語に移ろうとしている。しかし、このことは、小林秀雄氏が何処かで云っているように、単に既成作家、評論家が今の調子をつづけて円熟し、ものわかりよくなった結果として、年齢とともに期待し得るというような実質を意味するものではないと思う。

人間性というものの理解についても、現在のような社会事情の錯綜の裡にあっては、様々の複雑な混乱がおこっている。