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ぶんがくいぜん
文学以前
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《文学以前(ぶんがくいぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,171 字 · 38 頁
作家の書いた文章などというものは、そのまま迂濶には信じられない。モーリアックの右の文章にも、或は何等かの自己弁護の下心があるやも知れない。けれども、右のような事柄は、実際多くの作家が経験するところであろう。いろいろな作品のなかから、たとえ断片的にせよモデルを探すならば、人物についてよりも、室や家屋や街路や野原や川や海などを含めた広義の場所について、如何に多くのものが見出されることであろう。
不思議なのは、場所に対する吾々の感覚である。
私は面白い話を聞いた覚えがある。――寄席の舞台で、即席記憶の実演をやってみせる者が、以前はよくあった。一は煙草、二はビール、三は時計、四はナイフ……という工合に客の任意に指定させておいて、さて、三と云えば時計という風に直ちに答えるのである。ところで、その記憶の仕方だが、品物と数字とはなかなかくっつけられるものではない。最も容易く覚えるには、自分の自宅から一軒目二軒目三軒目と、はっきり頭にある人家を規準にして、一軒目のあの家には煙草、二軒目のあの家にはビール……という工合にくっつけるのである。少しく練習すれば、自分でも驚くほど上達するそうである。