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ぶんげいとどうとく
文芸と道徳
線上閱讀夏目 漱石《文芸と道徳(ぶんげいとどうとく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,678 字 · 32 頁
また個人の過失に対しては非常に厳格な態度をもっている。少しの過ちがあっても許さない、すぐ命に関係してくる。そうでしょう、昔の人は何ぞと云うと腹を切って申訳をしたのは諸君も御承知である。今では容易に腹を切りません。これは腹を切らないですむからして切らないので、昔だって切りたい腹ではけっしてなかったんでしょう。けれども切らせられる。いわゆる詰腹で、社会の制裁が非常に悪辣苛酷なため生きて人に顔が合わされないからむやみに安く命を棄てるのでしょう。
今の人から見れば、完全かも知れないが実際あるかないか分らない理想的人物を描いて、それらの偶像に向って瞬間の絶間なく努力し感激し、発憤し、また随喜し渇仰して、そうして社会からは徳義上の弱点に対して微塵の容赦もなく厳重に取扱われて、よく人が辛抱しておったものだという疑も起るが、これにはいろいろの原因もありましょう。第一には今のように科学的の観察が行届かなかった。つまり人間はどう教育したって不完全なものであると云うことに気がつかなかった。不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着に起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力したのである。