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ぶんげいのてつがくてききそ
文芸の哲学的基礎
線上閱讀夏目 漱石《文芸の哲学的基礎(ぶんげいのてつがくてききそ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 49,519 字 · 98 頁
そうして、かように区別し得る程度において明暸なる意識が、新陳代謝すると見ると、甲が去って乙が来ると云う順序がなければならぬはずであります。順序があるからには甲乙が共に意識せられるのではない。甲が去った後で、乙を意識するのであるから、乙を意識しているときはすでに甲は意識しておらん訳です。それにもかかわらず甲と乙とを区別する事ができるならば、明暸なる乙の意識の下には、比較的不明暸かは知らぬが、やはり甲の意識が存在していると見做さなければなりません。俗にこの不明暸な意識を称して記憶と云うのであります。だからして記憶の最高度はもっとも明暸なる上層の意識で、その最低度はもっとも不明暸なる下層の意識に過ぎんのであります。
すると意識の連続は是非共記憶を含んでおらねばならず、記憶というと是非共時間を含んで来なければならなくなります。からして時間と云うものは内容のある意識の連続を待って始めて云うべき事で、これと関係なく時間が独立して世の中に存在するものではない。換言すれば意識と意識の間に存する一種の関係であって、意識があってこそこの関係が出るのであります。だから意識を離れてこの関係のみを独立させると云う事は便宜上の抽象として差支ないが、それ自身に存在するものと見る訳には参りません。