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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《文藝別冊[総特集]岡本綺堂(いけぶくろのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 頁
」
指さす方面を見かえると、右側の田を隔てて小さい岡がある。その岡の下に一匹の狐の姿が見いだされた。狐は右の前足をあげて、あたかも招くような姿勢をしている。注意して窺うと、その狐が招くたびに、叔父はその方へよろけて行くらしい。
「畜生。ほんとうに化かしたな。」と、父は言った。
「おのれ、怪しからん奴だ。」
吉田はいきなりに刀をぬいて、狐の方にむかって高く振りひらめかすと、狐はたちまち逃げてしまった。それから後は叔父は真っ直ぐにあるき出した。三人は無事に自分たちの詰所へ帰った。あとで聞くと、叔父は夢のような心持でなんにも知らなかったということであった。これは動物電気で説明の出来ることではあるが、いわゆる「狐に化かされた」というのを眼のあたりに見たのはこれが始めであると、父は語った。
その翌々年の文久三年の七月、夜の四つ頃(午後十時)にわたしの父が高輪の海ばたを通った。父は品川から芝の方面へむかって来たのである。月のない暗い夜であった。田町の方から一つの小さい盆燈籠が宙に迷うように近づいて来た。最初は別になんとも思わなかったのであるが、いよいよ近づいて双方が摺れ違ったときに、父は思わずぎょっとした。