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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《文藝別冊[総特集]岡本綺堂(いけぶくろのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 頁
吉五郎は大勢の親分と立てられている人だけに、人間もなかなか如才ないらしく、初対面から打ち解けていろいろの話を仕掛けますけれども、こっちは針の筵に坐っているのですから、満足の受け答えができよう筈がありません。相手が打ち解けた風を見せるだけに、なおなおこっちは薄気味悪くなって来て、今にどうなることかと小さくなっていますと、やがて吉五郎は子分の者に眼配せをして、「あの屏風をあけろ。」と言いました。子分の二人が起ち上がって、下の方の隅に立てまわしてある逆さ屏風をあけると、六三郎はひと目見てはっとしました。
この逆さ屏風がさっきから気になっていたのですが、さていよいよ明けてみると、屏風のなかには一人の女がうしろ向きになって倒れているのです。長い髪は滅茶苦茶に散らばって、頭から肩のあたりに押っかぶさっていて、黒の帯はぐずぐずに解けかかっている。それはまあいいとして、女の着ている白地の単衣はどこもかしこも血だらけで、とりわけて肩や脇腹のあたりには、大きな撫子の花でも染め出したようにべっとりと紅くにじんでいる。早くいえば、芝居の切られお富をそのままなのです。この女は誰でしょう。