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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《文藝別冊[総特集]岡本綺堂(いけぶくろのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 頁
それを見た時に、お熊の眼からは真白な涙が糸を引いて流れた。罪人が引立てられて白洲を退る時に、お菊は容易に動かなかった。
「お慈悲でございます、お慈悲でございます。」と、彼女は砂利の上を転げながら叫んだ。自分はこれまでに一度も悪いことをした覚えはない。今度のことも據ろなく頼まれたのであると切りに訴えたが、彼女の涙は名奉行の心を動かすことは能なかった。しかし名奉行にも涙が無いのではなかった。四人の中で三人は引廻しを申し渡されたにも拘らず、お菊だけは引廻しの恥を免れたのである。仮にも主人に刃を向けた彼女に対しては、この以上に寛大の仕置を加えようが無いのであった。又四郎その他の者はすべて御構い無しと申渡された。
牢にいる間に、お熊は窃とお菊に約束して、もしお前が命を助かったらば、妾の形見として黄八丈の小袖を遣ろうと云った。しかしお菊も助からなかった。いよいよ申渡しを受けて牢屋へ帰った後、お菊もようよう覚悟したらしく、隙を見てお熊に囁いた。
「お内儀さん。お前がお仕置に出る時には、あの黄八丈を召して下さい。寧そ思いを残すことが無くって可うございます。」
お熊はさびしく微笑んだ。