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しんじゅのことば
新樹の言葉
線上閱讀太宰 治《新樹の言葉(しんじゅのことば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,156 字 · 59 頁
僕さえ丈夫で生きていたら。」
ふと、私は、目蓋の熱いのを意識した。こんなに陰で私を待っていた人もあったのだ。生きていて、よかった、と思った。
「私が十歳くらいで、君が三つか四つくらいのとき、いちど逢ったことがあるんじゃないかしら。つるが、お盆のとき、小さい、色の白い子を連れて来て、その子が、たいへん行儀がよく、おとなしいので、私は、ちょっとその子を嫉妬したものだが、あれが君だったのかしら。」
「僕、かも知れません。よく覚えていないのです。大きくなってから、母にそう言われて、ぼんやり思い出せるような気がしました。なんでも、永い旅でした。お家のまえに、きれいな川が流れていました。」
「川じゃないよ。あれは溝だ。庭の池の水があふれて、あそこへ流れて来ているのだ。」
「そうですか。それから、大きな、さるすべりの木が、お家のまえに在りました。まっかな花が、たくさん咲いていました。」
「さるすべりじゃないだろう。ねむ、の木なら、一本あるよ。それも、そんなに大きくない。君は、そのころ小さかったから、溝でも、木でも、なんでも大きく大きく見えたのだろう。」
「そうかも知れませんね。