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ふたりのとも
新潮日本文学1 森鴎外集
線上閱讀森 鴎外《新潮日本文学1 森鴎外集(ふたりのとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,954 字 · 29 頁
ところで君はどうして小倉で暮して行く積りだ。」こう云ったが、F君は黙っている。私はすぐに畳み掛けて露骨に云った。「君金があるのか。」
F君は黙ってはいられなくなった。「金は東京から来る汽車賃に皆使ってしまったのです。国から取れば、多少取れないこともありませんが、目前の用には立ちません。当分あなたの所に置いて下さるわけには行きますまいか。」
この詞は私の評価に少からず影響した。F君のドイツ語の造詣は、初め狂人かとまで思った疑を打ち消して、大いに君を重くしたのに、この詞は又頗る君を軽くした。固より人間は貧乏だからと云って、その材能の評価を減ずることはない。しかしF君が現に一銭の貯もなくて、私をたよって来たとすると、前に私を讃めたのが、買被りでなくて、世辞ではあるまいか、阿諛ではあるまいかと疑われる。修行しようと云う望に、寄食しようと云う望が附帯しているとすると、F君の私を目ざして来た動機がだいぶ不純になってしまう。人間の行為に全く純粋な動機は殆ど無いとしても、F君の行為を催起した動機は、その不純の程度が稍甚しくはあるまいかと疑われる。
これまで私に従学したいと云って名告り出た人に、F君のような造詣のあったことは曾て無い。