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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

線上閱讀林 芙美子《新版 放浪記(しんぱん ほうろうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 頁

青空文庫

秋になると、星が幾つも流れて行く。もうじき街の入口である。後の方から、「おっさんよっ!」と呼ぶ声がした。渡り歩きの坑夫が呼んでいるらしかった。父は荷車を止めて「何ぞ!」と呼応した。二人の坑夫が這いながらついて来た。二日も食わないのだと云う。逃げて来たのかと父が聞いていた。二人共鮮人であった。折尾まで行くのだから、金を貸してくれと何度も頭をさげた。父は沈黙って五十銭銀貨を二枚出すと、一人ずつに握らせてやった。堤の上を冷たい風が吹いて行く。茫々とした二人の鮮人の頭の上に星が光っていて、妙にガクガク私たちは慄えていたが、二人共一円もらうと、私達の車の後を押して長い事沈黙って町までついて来た。

しばらくして父は祖父が死んだので、岡山へ田地を売りに帰って行った。少し資本をこしらえて来て、唐津物の糶売りをしてみたい、これが唯一の目的であった。何によらず炭坑街で、てっとり早く売れるものは、食物である。母のバナナと、私のアンパンは、雨が降りさえしなければ、二人の食べる位は売れて行った。馬屋の払いは月二円二十銭で、今は母も家を一軒借りるよりこの方が楽だと云っていた。