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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

線上閱讀林 芙美子《新版 放浪記(しんぱん ほうろうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 頁

青空文庫

「奥のお客さんにお茶を一ツあげて下さい。」

重役らしい人が私の肩を叩いて奥を指差す。茶を持ってドアをあけると、黒眼鏡をかけた色の白い女のひとが、寒暖計の表のような紙に、赤鉛筆でしるしをつけていた。

「オヤ! これはありがとう、まあ、ここには女の人もいるのね、暑いでしょう……」

黒ずくめの恰好をした女のひとは、帯の間から五十銭銀貨二枚を出すと、氷でも召し上れと云って、私の掌にのせてくれた。

こんなお金を月給以外にもらっていいのかしら……前の重役らしい人に聞くと、くれるものはもらっておきなさいと云ってくれた。社の帰り、橋の上からまだ高い陽をながめて、こんなに楽な勤めならば勉強も出来ると思った。

「貴女はまだ一人なの?」

袴をはいて靴を鳴らしている彼女は、気軽そうに口笛を吹いて私にたずねた。

「私二十八なのよ、三十五円くらいじゃ食えないわね。」

私は黙って笑っていた。

(七月×日)

大分仕事も馴れた。朝の出勤はことに楽しい。電車に乗っていると、勤めの女達が、セルロイドの円い輪のついた手垂げ袋を持っている。月給をもらったら私も買いたいものだ。階下の小母さんはこの頃少し機嫌よし。