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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

線上閱讀林 芙美子《新版 放浪記(しんぱん ほうろうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 頁

青空文庫

紙はつるつるしたのが自由自在だけれど、こちらは素かんぴん。ああどうよくではござりませぬか。

森々とよく蝉が啼きたてている。

部屋の中を見まわしてみる。かび臭い。床の間もなければ、棚も押入もない。この暑いのに、オッカサンはまだネルの着物を着ている。洗いざらしたネルの着物で、ことことさっきからキャベツを刻んでいる。部屋の隅に板切を置いて、まことにきれいな姿なり。

私たちはキャベツばっかり食べている。ソースをかけて肉なしのキャベツをたべる。それはねえ、ただ、まぼろしの料理。夢のなかの出来事さ。粉挽も見た事がない。魚はもちろん、魚屋の前は眼をつぶって、息を殺して通る。あいなめに、鯛に、さばに、いさき、かつおの紳士。――フランセ・ママイといってね、時々私の処へ夜噺しに来る笛吹きの爺さんが、ああドーデーと云う方は金に困らぬ小説家なのであろう。風車小屋だよりは、ぜいたく至極な物語りで、十二社の汚ない風車小舎とはだいぶおもむきが違うのであろう。俳句でもつくってみたくなるけれど、どうも、川柳もどきになってしまう。風に吹かれただけで俳句がつくりたくなる。蝉の声をきいただけで、ああと溜息まじり。