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『しんやくげんじものがたり』しょはんのじょ

『新訳源氏物語』初版の序

上田 敏

線上閱讀上田 敏《『新訳源氏物語』初版の序(『しんやくげんじものがたり』しょはんのじょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,387 字 · 5 頁

青空文庫

とか、「せさせ給ふ」とかいう尊称語を除いてみれば、後世の型に囚われた文章よりも、この方が、よほど、今日の口語に近い語脈を伝えていて、抑揚頓挫などという規則には拘泥しない、自然のままの面白味が多いようだ。

しかも時代の変遷はおのずから節奏の変化を促し、旋律は同じでも、拍子が速くなる。それ故に古の文章に対う時は、同じ高低、同じ連続の調子が現われていても、何となく間が延びているため、とかく注意の集中が困難であり、多少は努力なくては、十分に古文の妙を味えない。

古文の絶妙なる一部分を詞華集に収めて、研究翫味する時は、原文のほうが好かろう。しかし全体としてその豊満なる美を享楽せんとするには、一般の場合において、どうしても現代化を必要とする。与謝野夫人の新訳はここにその存在の理由を有していると思う。

従ってこの新訳は、漫に古語を近代化して、一般の読者に近づきやすくする通俗の書といわんよりも、むしろ現代の詩人が、古の調を今の節奏に移し合せて、歌い出た新曲である。これはいわゆる童蒙のためにもなろうが、原文の妙を解し得る人々のためにも、一種の新刺戟となって、すこぶる興味あり、かつ稗益する所多い作品である。