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しんしゃくしょこくばなし
新釈諸国噺
線上閱讀太宰 治《新釈諸国噺(しんしゃくしょこくばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 93,562 字 · 179 頁
式部もいまはこれまでと観念し、
「それ! 若殿につづけ。」とお供の者たちに烈しく下知した。いずれも屈強の供の武士三十人、なんの躊躇も無くつぎつぎと駒を濁流に乗り入れ、大浪をわけて若殿のあとを追った。
岸には、丹三郎と跡見役の式部親子とが残った。丹三郎は、ぶるぶる震えながら勝太郎の手を固く握り、
「若殿は野暮だ。思いやりも何も無い。おれは実は馬は何よりも苦手なのだ。何もかも目茶苦茶だ。」と泣くような声で訴えた。
式部は静かにあたりを見廻し、跡に遺漏のものの無きを見とどけ、さて、丹三郎に向い、
「これも皆、あなたの言葉から起った難儀です。でもまあいまは、そんな事を言っていたって仕様がありません。すぐに若殿の後を追いましょう。わしたちは果して生きて向う岸に行き着けるかどうか、この大水では、心もとない。けれども、わしは国元を出る時、あなたの親御の丹後どのから、丹三郎儀はまだほんの子供、しかも初旅の事ゆえ、諸事よろしくたのむと言われました。その一言が忘れかね、わしはきょうまで我慢に我慢を重ねて、あなたの世話を見て来ました。いまこの濁流を渡って、あなたの身にもしもの事があったなら、きょうまでのわしの苦労もそれこそ水の泡になります。