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しゃにちざくら

日本の名随筆17 春

河井 寛次郎

線上閱讀河井 寛次郎《日本の名随筆17 春(しゃにちざくら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,051 字 · 9 頁

青空文庫

その一つに切り立った雪の山を背景にして薄墨色の江上に、笹の葉程な舟を浮べて、一人釣りしている絵があった。つくね芋のような山又山が、今にも崩れ落ちそうに雪を冠っているのはおかしかったが、よく見ると蓑笠をつけたこの漁人は、腕程もある竿に太い縄程な糸を垂らしている。何を釣ろうとするのか、すべてはあり得ないものが、そこにはあった。でも雪景色である事には違いなく、如何にも大雪らしかった。それで上の空所に「独釣寒江雪」と賛が書き入れてあった。これは子供達にはおかしな事であった。というのは、そんな説明はされる迄もなく、誰にだって意味の解る絵であったから、でもこの絵は何も彼も嘘であるのにも拘わらず、その嘘を越えて何物かがあった。後になって解った事ではあるが、この賛は素晴らしい事を言っていたのだ。魚を釣っていると読めば、馬鹿げた蛇足で贅言で滑稽ではあるが、然し雪を釣っていると読めばとたんに意味を持った。多分賛者はそれを意図したのであろう。そう解釈したい。そうでなかったなら、こんな絵はとうにうさって(失っている意)いた筈である。釣から言えば、釣魚なんか、ほんのかけ出しの初歩なのだそうだ。