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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本の怪談(ぎじんのすがた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 頁
「もう、よし、云うな」
不快な顔をして坐っていた元親は、急に立ちあがって奥の間へ入ってしまった。
当時吉良親実は小高坂(こだかさ)――今の県立師範学校の裏手――に住んでいた。彼はその日限り、元親の前へ出仕することを止められた。久武内蔵助が仁淀川の復讐をする時節が来た。内蔵助は日々元親の傍で彼を讒謗した。
桑名弥次兵衛、宿毛(すくも)甚右衛門の二人は、元親の命によって小高坂の邸へ遣わされた。それは天正十六年十月十四日のことであった。親実はその日客を対手にして碁を打っていた。親実は取次が報知(しら)せてくると、おろそうとした石を控えてちょうと考える容(さま)であったが、
「検使に来たと見えるな、今碁を打っておるから、碁が済むまで待たしておけ」
彼は静に石をおろした。客もその後を受けて石をおろしたが、その指端(さき)は慄えていた。彼はその時二十六歳であった。そのうちに碁が終ってしまった。彼は客と石の吟味をした後に、己(じぶん)の石を碁笥(ごけ)に入れて盤の上に置いた。
「それでは検使を迎えようか」
彼は悠々として表座敷へ往って検使を迎えた。桑名弥次兵衛は畳の上を見詰めながら元親の命を伝えた。