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あべいちぞく

日本の文学 3 森鴎外(二)

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《日本の文学 3 森鴎外(二)(あべいちぞく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,545 字 · 140 頁

青空文庫

女の乱れた髪は塵に塗れている。顔を見れば盲である。正道はひどく哀れに思った。そのうち女のつぶやいている詞が、次第に耳に慣れて聞き分けられて来た。それと同時に正道は瘧病のように身うちが震って、目には涙が湧いて来た。女はこういう詞を繰り返してつぶやいていたのである。

安寿恋しや、ほうやれほ。

厨子王恋しや、ほうやれほ。

鳥も生あるものなれば、

疾う疾う逃げよ、逐わずとも。

正道はうっとりとなって、この詞に聞き惚れた。そのうち臓腑が煮え返るようになって、獣めいた叫びが口から出ようとするのを、歯を食いしばってこらえた。たちまち正道は縛られた縄が解けたように垣のうちへ駆け込んだ。そして足には粟の穂を踏み散らしつつ、女の前に俯伏した。右の手には守本尊を捧げ持って、俯伏したときに、それを額に押し当てていた。

女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。女は目があいた。

「厨子王」という叫びが女の口から出た。二人はぴったり抱き合った。

大正四年一月