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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

は自分の方から随分詰問した書面を送ったこともあったが、女はそれについては、少しも、こっちを満足せしめるようなはっきりした返事をよこさなかった。とうとうまた、ようやく一年半ぶりに女に逢うべく京都の地に来ていながら、私はただ、あたりまえの習慣に従って女に逢うのが物足りなくなって、この前の時のように手紙や電報で合図をしても、それに対して一向満足な手紙をよこさないのであった。ただ普通の習慣に従って逢おうとすればすぐにでもあえるのであるが、女の方から進んで何とか言ってくるまではしばらく放棄っておこう。これを仮りに人のこととして平静に考えてみても、向うから進んで何とか言わなければならぬ義理である。百歩も千歩も譲って考えても、いくら卑しい稼業の女であってもそんなわけのものではない。

そう思い諦めて、しばらくの間、気を変えるために、私は晩春の大和路の方に小旅行に出かけていった。そっちの方は、もう長い間行ってみたいと思っていたところであったが、この四、五年の間私の頭の中は全部その女のために占領せられて、ほかのことは何もかも後まわしにしておいた。事実のこと、私は、その女を自分のものにしなければ、何も欲しくないと思っていたのであった。