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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

そして、山科に娘を預けたというのは、であろうというと、もう、そんなところにいるものか、遠くの親類が引き取ったとか、またこういえば、私が東京へ帰って行くとでも思ったか、世話をする人が家内にするといって東京へ連れて行ったなどといろんなことをいっていた。たしかに南山城に行っているとも思えないが、母親が、いつもよくいうとおりだとすれば、あるいはそうかも知れぬ。あの女が、自分の索り求めえられる世界から外へ身を隠した、もう、とてもどうしても会うことも見ることも出来ぬと思えば、自分は生きている心地はせぬ。そんな思いをして毎日じっとして欝いでばかりいるよりは、当てのないことでも、往って探してみる方がいくらか気を慰めると思って、私は、十二月のもう二十九日という日に、わざわざそちらの方へ出かけていった。木津で、名古屋行きに汽車を乗り換えると、車内は何となく年末らしい気分のする旅行者が多勢乗っている。一体木津川の渓谷に沿うた、そこら辺の汽車からの眺望はつとに私の好きなところなので、私は、人に話すことは出来ないが、しかし、自分の生きているほとんど唯一の事情の縺れから、堪えがたい憂いを胸に包みながら、それらの旅客に交って腰を掛けながら、せめても自分の好める窓外の冬景色に眼を慰めていた。