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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

私は、母親をやり過しておいて、七、八間も後れながら忍び忍び蹤いてゆくと、幾つもある廻り角を曲ってだんだんこの間の家の方へ近づいて行く。そして、とうとう、やっぱりその路次を入っていった。母親の姿が路次の曲り角を廻って見えなくなると、私は小走りに急いで後を追うてゆくと、母親は、やっぱり過日の三軒並んだ中央の家の潜戸を開けて入ってゆくところであった。そして入ったあとをぱたりと閉めてしまった。

私はこちらの路次の入口のところに佇立まって「ははあ」とばかりその様子を見ながら、心の中で、「今まで言っていたことは何もかも皆なばかりであった。やっぱり女もこの家にいるにちがいない」と独りでうなずいて、

「もうこうして居処を突き留めた以上は大丈夫である。これから一と思いに踏み込んでやろうか」と思ったが、いやいや長い間の気の縺れに今は精神が疲労しきっている。今すぐ、あの戸を叩いては、また仕損じることがあってはいけない。あの家の中に女が潜んでいると知ったら安心である。あえて急ぐには及ばぬ。ゆっくり心を落ち着けて、精神の疲労を回復した上で話に取りかかっても遅しとせぬ。そう思案をして、そのままそっと路次を引き返して表の通りの方へ出て来た。