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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
どうかして一度顔を見たいものである。そして出来ることなら母親に内証で、こちらの胸をそっと向うに通ずる術もないものかと、いろいろに心を砕いたが、好い方法も考えつかぬ。毎日そこの路次口にいって立っていたなら、風呂に行く時にでも会われはせぬかと思ってみたが、一月から二月にかけて寒い最中のこととて、あまり無分別なことをして病気にでもなったら、この上になおつまらぬ目に会わねばならぬと思うと、そんなことも出来ぬ。そして時々路次に入っていって入口のところに立って家の中の様子に耳を澄ましてみるが、人がいるのか、いないのか、ことりという音もせねば話し声も洩れぬ。そっと音のせぬように潜戸を引っ張ってみても、相変らず閉めきっていて動かない。入口の左手が一間の子窓になっていて、自由に手の入るだけの荒い出格子の奥に硝子戸が立っていて、下の方だけ擦り硝子をはめてある。そこから、手をし入れて、試みにそっとその硝子戸を押してみると五、六寸何のこともなくずうっと開きかけたが、ふっとそれから先戸が動かなくなったのが、どうやら誰か内側からそれを押えているらしく思われたので、こんどは二枚立っている硝子戸の左手の方を反対に右手に引こうとすると、それもまた抑えたらしく開かない。