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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

私もこのとおり今まで貰っていた手紙を持って来た。これを戻すんです」

そこへお宮は二階から金唐紙の小さい函を持って降りて来た。その中には手紙が一ぱい入っている。

そして茶の間の真中にこちらに尻を向けて坐りながら、

「さあ、こんなものがそんなに欲しけりゃあいくらでも返してやる」と、山のような手紙の中から私の手紙を選り分けて後向きに叩きつけた。

「さあ、これもそうだ! ありったけ返してやるから持って行け」

私は長火鉢の前に坐って、それを横眼に見ながら笑っていた。

お宮は七、八本の手紙をそこに投げ出しておいて、

「あんまり人に惚れ過ぎるからそんな態を見るんだ」といいつつ二階に駆け上って、函を置いて降りて来ると、

「こんなところに用はない。柳沢さんのところに早くゆこう」と、棄て科をいって裏口から出ていった。

私は、黙って笑っていた。

「一体どうしたんです?」主婦は笑いながらまた同じことをいった。

私は腹の中でこの畜生め、何もかも知っていやあがるくせに白ばくれていやあがる。と思いながら、

「いや何でもない。この手紙さえ戻してもらえば私には何にも文句はないんです」わざと静かにいって、お宮の投げ出して行った手紙を取り上げて懐中に収めた。