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あゆむ
日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)
戸田 豊子
線上閱讀戸田 豊子《日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)(あゆむ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,183 字 · 44 頁
長屋の奥で誰かが雨戸を繰り開け、横顔へばっさり長髪をたらした男が頸を突きだして此方を見た。煮出うどんやの箱車の下で犬が二匹挑み合っている。
「まあ、お珍らしい」
小母さんはにこにこして、
「兄さんですか? 近頃さっぱり家へ帰ってこんのですよ、あなたの方へは?」
「昨日、電車のなかで一寸会ったっきり、そうですか、――としちゃんは?」
「あの子はね、お蔭様で、兄さんのお世話でガソリン売の方へ出ることになって、体も丈夫になるし、そりゃ喜んでましたよ」
小母さんは苦労しすぎた故か、いくらかつんけんしたヒステリ性の女であったが、今日はいかにも晴々しく笑って見せた。色の白い細っそりしたとしちゃんが百貨店の女給が任まるようになった当時は小母さんもいくらか幸福相だったが、なかなか巧い具合にゆかないもので、最初は、食堂で渡される靴が足には小さいのを無理して穿いてるうちに、たちの悪い底豆が出て非常に悩まされた、母親にはがみがみ言われるし、食堂で辛そうにしていては監督の重たい一皮目が追いまわすし……小さいとしちゃんは浅草や上野を遊びまわるようなことになった、小母さんは持前の肝癪を起して、百貨店の人事課へ行って怒鳴り散らして来た、それでやっと草履を穿く方へ廻されたかと思うと今度はまたとしちゃんが勤務中二度ばかり血を吐いたという事について