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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《日本婦道記(にほんふどうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,620 字 · 26 頁
家の中がすっかり片付き、自分の部屋がきまってひとおちつきしても、その気持はつよくなるばかりだった。はてはあの御中屋敷の隅の、伐り払われた楢の林のことまで想いだして、緊めつけられるような寂しさに幾たびも泣いた。見るもの聞くもの、なにもかも江戸とはまるで違う。空の色も鮮やかすぎるし、吹く風も暴あらしく思えた。隅田川の眠たげな水を見た眼には、五月雨に水嵩の増した信濃川はおどろおどろしいとしかみえない。言葉の訛りにもなかなか馴れず、いつまでも旅にいるようなたよりない心をさそわれたものだ。
うかうかと夏も過ぎて野山が秋立つ頃になると、それでも少しずつ土地の水に馴れてゆくのが自分にもわかった。そういう一日、なんの前触れもなくひとりの老婦人が私を訪ねていらしった。
「長橋と仰有る方ですよ……」嫂がそうとりついで下すったけれど、私にはどなただかわからなかった。ともかくもとお通し申して対座すると、老婦人はたいそう特徴のある低いお声で、湖月亭の大人から音信のあったことを云いだされた。それでようやく私も想いだしたのであるが、「おいでを待っていたのですが、なかなかおみえにならないのでお訪ねしたのですよ……」