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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁

青空文庫

やがて最早(もう)息を引取ったろうか、そんなことを思いながら、病院の方へ急いで見ると、まだお房は静かに眠る状態(さま)である。小鳥も塒(ねぐら)に帰る頃で、幾羽となく椎の樹の方へ飛んで来た。窓のところから眺めると、白い服を着た看護婦だの、癒りかけた患者だのが、彼方此方(あちこち)と庭の内を散歩している。学士達は消毒衣のままで、緑蔭にテニスするさまも見える。ここへお房が入院したばかりの時は、よく私も勧められてテニスの仲間入をしたものだが、最早ラッケットを握る気にも成れなかった。

お房の眼の上には、眸(ひとみ)が疲れると言って、硼酸(ほうさん)に浸した白い布が覆(かぶ)せてあった。時々痙攣の起る度に、呼吸は烈しく、胸は波うつように成った。頭も震えた。もはや終焉(おわり)か、と思って一同子供の周囲(まわり)に集って見ると、復たいくらか収って、眠った。

夕日は室(へや)の内(なか)に満ちた。庭に出て遊ぶ人も何時の間にか散って了った。不忍(しのばず)の池(いけ)の方ではちらちら灯(あかり)が点(つ)く。私達は、半分死んでいる子供の傍で、この静かな夕方を送った。