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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁
と呼ぶ声が起った。音吉の弟は人をめがけて大きな石を振揚げている。
「あれで、冗談ですぜ」
と学士もそこへ来て言って、高瀬に笑って見せた。
荒い人達のすることは高瀬を呆れさせた。しかしその野蛮な戯れは都会の退屈な饒舌にも勝って彼を悦ばせた。彼はしばらくこの地方に足を留め、心易い先生方の中で働いて、もっともっと素朴な百姓の生活をよく知りたいと言った。谷の向うの谷、山の向うの山に彼の心は馳せた。
それから二年ばかりの月日が過ぎた。約束の任期が満ちても高瀬は暇を貰って帰ろうとは言わなかった。「勉強するには、田舎の方が好い」そんなことを言って、反って彼は腰を落着けた。
更に二年ほど過ぎた。塾では更に教室も建増したし、教員の手も増した。日下部といって塾のためには忠実な教員も出来たし、洋画家の泉も一週に一日か二日程ずつは小県の自宅の方から通って来てくれる。しかし以前のような賑かな笑い声は次第に減って行った。皆な黙って働くように成った。
教員室は以前の幹事室兼帯でも手狭なので、二階の角にあった教室をあけて、そっちの方へ引越した。そこに大きな火鉢を置いた。鉄瓶の湯はいつでも沸いていた。