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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁

青空文庫

の叫び声は埒の四方から起る。殿下は御仮屋の紫の幕のかげに立たせられ、熱心に眺入らせ給うのでした。大佐は幾度馬博士の肩を叩(たた)いたか知れません。知事も、郡長も、御附の人々も総立です。参事官は白いしなやかな手を振りました。五人の乗手は丁度乗出した時と同じ順で、五十間ばかりの距離を波打つように乗進んで行った。源が紫に先んじたことは、樺が赤に後れたと同じ程の距離です。ですから源が振返って後を見た時は、舞揚る黄色い土烟(つちけむり)の中に、紫と白とがすれすれに並び進んで、乗迫って来たのを認めたばかり。懼(おそ)るべき灰色の馬頭は塵埃(ほこり)に隠れて見えませんのでした。驚破(すわや)、白は紫を後に残して、真先に進む源をも抜かんとする気勢(けはい)を示して、背後に肉薄して来た。「青」、「白」の声は盛に四方から起る。源も、白も、馬に鞭(むちう)って進みました。競馬好きな馬博士は、「そこだ、そこだ」とばかりで、身を悶(もだ)えて、左の手に持った山高帽子の上へ頻(しきり)と握拳(にぎりこぶし)の鞭をくれる。大佐は薄鬚(うすひげ)を掻※(かきむし)りました。今、源は百間ばかりも進んだのでしょう。