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きゅうぶんにほんばし

旧聞日本橋

長谷川 時雨

線上閱讀長谷川 時雨《旧聞日本橋(きゅうぶんにほんばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,172 字 · 36 頁

青空文庫

自由を得る門出に、と、あたしは寒い戦慄のもとに、親のもとを離れる第一歩を覚悟した。昔の人が厄年だという十九歳の十二月の末に、親の家から他家へ嫁入りとなって家を出た。嫁にやられるには違いはないが、あたしは円満に親の手を離れる決心であった。だから、途中からでも逃げたい気持ちだったが、父の恥を思うと躊躇させられた。それにまた、華々しいほどの出入りの者にかこまれて、身動きも出来ない羽目となっていた。母は、さすがに、子の心は察しがつくと見えて、紙入れをもたせなかった。一銭の小遣いもわたさなかった。

以上が、明治十二年末から、二十年の末までの、東京下町の、ある家庭の、親に従順な一人の娘の、表面に現われない内面的生活争闘史である。以下は、彼女が、彼女自身で、茨を苅りながら、自分の道へと、どうにかこうにか歩き出して来た道程であるが、はじめから本道を歩きださぬ者には、よけいな道草ばかり食って、いくらも所念の道は歩いていない。振りかえって見るのも嫌なくらいである。あたしはまっしぐらに、おもてもふらず行こうとすると、きっと障碍が出来てくる宿命に生まれついてでも居るようだが、いって見れば畢竟は努力が足りないのだ。