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えいがざっかん(ご)

映画雑感(Ⅴ)

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《映画雑感(Ⅴ)(えいがざっかん(ご))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,204 字 · 5 頁

青空文庫

第一、実地ではこんなに演奏者を八方から色々の距離と角度で眺めることは不可能であるが、そればかりでなく映画のカメラは吾らの眼の案内をして複雑な管弦楽の編成の内容を要領よく解明してくれる。曲の各部をリードしている楽器を時々に抽出してその方に吾々の注意を向けてくれる。例えばファゴットの管の上端の楕円形が大きく写ると同時にこの木管楽器のメロディーが忽然として他の音の波の上に抜け出て響いて来るのである。こういうことは作曲者かあるいは指揮者を同伴して演奏会へ行っても容易に得られない無言の解説である。カルメンの中の独唱でも、管弦楽の進行の波頭が指揮者のふりかざした両腕から落ちかかるように独奏者のクローズアップに推移して同時にその歌を呼出すといったような呼吸の面白さは、実地では却って容易に味わわれないものである。こういう意味では音楽自身よりもこうした音楽映画は数等複雑多様なディメンションをもった芸術であると思われる。

四 その夜の真心

前説と同様な意味で、この映画はたとえ何十回競馬を見物に行っても味わうことの六かしいと思われる競馬というスポーツの最高度のスリルを味わわせる映画で、すべての物語の筋道などは、ただこのクライマックスの競馬の場面の鋭いスリルを鋭くするために細かく仕組まれた足場として見ることも出来る。