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はるのよる

春の夜

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《春の夜(はるのよる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,514 字 · 6 頁

青空文庫

Nさんは勿論びっくりした。が、その上にも驚いたことには思わずたじたじとなりながら、肩越しに相手をふり返ると、闇の中にもちらりと見えた顔が清太郎と少しも変らないことである。いや、変らないのは顔ばかりではない。五分刈りに刈った頭でも、紺飛白らしい着物でも、ほとんど清太郎とそっくりである。しかしおとといも喀血した患者の清太郎が出て来るはずはない。況やそんな真似をしたりするはずはない。

「姐さん、お金をおくれよう。」

その少年はやはり抱きついたまま、甘えるようにこう声をかけた。その声もまた不思議にも清太郎の声ではないかと思うくらいである。気丈なNさんは左の手にしっかり相手の手を抑えながら、「何です、失礼な。あたしはこの屋敷のものですから、そんなことをおしなさると、門番の爺やさんを呼びますよ」と言った。

けれども相手は不相変「お金をおくれよう」を繰り返している。Nさんはじりじり引き戻されながら、もう一度この少年をふり返った。今度もまた相手の目鼻立ちは確かに「はにかみや」の清太郎である。Nさんは急に無気味になり、抑えていた手を緩めずに出来るだけ大きい声を出した。