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はるのやま
春の山
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《春の山(はるのやま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,782 字 · 18 頁
周平が伏籠の前へ行くと、軍鶏はにわかに猛りたって、ゾヨゾヨと羽ずれの音をたてながら、飛びあがり飛びあがり、伏籠の天井を蹴るので、いまにも籠を破って出てきそうで不気味だった。
「うるさいやつだな。軍鶏ってのは、いつでもこんなに腹をたてているものなのか」
「闘鶏のある日にゃ、鶏冠と尾羽をつめて、赤いものをかぶせておくから、奴は心得て張り切るですよ。話には聞いていたが、『明月院』ってのは、まだ見たことがねえ。六さんにドヤされるかもしらねえが、ちょっくら、のぞいてやるべえ」
紅絹の袋をとると、総黒の、見るからに精悍そうな軍鶏が、伸びあがるような恰好で、ひとりであばれていた。
「うわ、すごい。先生、こいつはマレモノですぜ」
鶏冠はズタズタに裂けて磯の血色藻のようにゆらゆらし、眼は睨みつけるようで、どこといって一点、可愛げのない憎体な面がまえをしている。
明月院は眼を光らせて周平の顔を見ていたが、なにが気にいらないのか、羽毛のない赤膚を緊張させると、怒り毛を逆立て、いまにも飛びかかろうとするように、身体をゆすりながら足踏みをはじめた。
水に濡れたような正真の烏黒に、エメラルド色の細かい斑がいちめんにちらばったところなどは、どう見ても、青い色糸でタッチングしたロシア天鵞絨の感じである。