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はるふかく

春深く

久保田 万太郎

線上閱讀久保田 万太郎《春深く(はるふかく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,257 字 · 7 頁

青空文庫

夕暗は、濃く、泪ぐましく罩めた。

湯に入ったあとで、いたずらに皿かずばかり多くならべた膳の前にすわった。川瀬の音が雨のように近く聞えた。――わたしはぬるい酒を我慢して飲んだ。

と、階下の、離れた座敷のほうで「カチュウシャ、可愛や、わかれのつらさ」と大ぜいでうたいはじめた。――訊くと、女中は、信州の小学校の先生たちの会があるとこたえた。

その晩、早くねたわたしは、あくる朝、覿面に早く眼がさめた――勝手の知れないまま、しばらく床の中でもじもじしていたものの、辛抱し切れなくなってわたしは起きた。――窓の雨戸をあけると、昨夜あれほど近かった瀬の音が、しずかに知らないふりに遠退いていた。

顔を洗いがてら湯に下りた。昨夜はそれほどに思わなかったが、明るいなかでみると、湯槽も古く湯の色もふかく濁っていた。――それには、昨夜はだれもいなかった湯槽の中にながしのうえに、みも知らない人たちが、仲間同士それぞれに固まって、高ごえにわけもなくわめき合っていた。――言葉から推して東京でないことは直ぐに分った。

からだを拭くのもそこそこにわたしは部屋にかえった。

朝の膳も昨夜に劣らないほどの品かずを持っていた。