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ひるのはなび

昼の花火

山川 方夫

線上閱讀山川 方夫《昼の花火(ひるのはなび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 頁

青空文庫

手巾の笹縁が、額に淡い三角の影をつくり、女は、豊かな髪を持ち上げるように、両手を首のうしろに廻した。すこし上目づかいに彼をながめ、その唇が笑った。

女の顔の上に、斜めに人びとの肩がそびえ、どの顔も申し合わせたような明るい表情で、グラウンドの球の行方を追い、眸が動いている。さらにその上、人びとの顔で埋った観客席の斜面を照りつけて、青空があった。

太陽は、その中央近くにある。

誘われたように、女も空を見上げる。口紅が、青空に映えて、印刷したような鮮やかな色になった。

見ながら、突然彼はその女の頤から喉につづく線を、美しい、とつよく感じた。稲妻のように、その光が、記憶のなかの女の像にふれた。

ともすればそれを肉感的な衝撃と思いやすいのを、記憶に翻刻して現実を味わう、いつもの性癖のためと思った。

去年の夏、二人は両国の川開きに行った。

はじめて二人きりで約束をした日だった。女は、まだ女子大の四年にいた。

数十万の人出だといわれたその日、二人が雑沓を抜け、浅草橋のあるビルの屋上に出たとき、ちょうど、それを合図のように乱菊が打ち揚った。

空はまだ暮れきってはいず、昼の色を拭いのこした静かな夕空は、目にみえぬ無数の漣の動くひろい川面のように見えた。