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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(五)
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(五)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,744 字 · 434 頁
慌てて有り合わせた物を栓にさしたが、どうも巧く行かない。ふだんならば此の辺に何かの船が通る筈ですが、あいにく夕方でほかの船も見えない。そのうちに水はだんだんに増して来て、大きくもない屋根船は沈みかかる。船頭は大きい声で助け船を呼ぶ。女中たちも必死になって呼び立てる。それを聞きつけて、佐賀町の河岸から米屋の船が二艘ばかり救いに出て来ましたが、もう間に合わない。あれあれと云ううちに、船はとうとう沈んでしまいました」
文久元年といえば、今から三十余年の昔話であるが、その惨事を聞かされて、わたしは思わず顔をしかめた。
「誰も助からなかったんですか」
「船頭は泳ぎを知っているから、いざというときに川へ飛び込んで助かりましたが、因幡守という人は水心がなかったと見えて沈みました。ほかは女ばかりですから、妾のお早、娘のお春を始めとして、三人の女中もみんな流されてしまいました。さあ大騒ぎになって、すぐに築地の屋敷へ知らせてやる。屋敷からも大勢が駈けつけて、幾艘の船を出して死骸の引き揚げにかかりましたが、もう日が暮れて、水の上が暗いので、捜索もなかなか思うように行かない。