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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(六)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(六)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,831 字 · 396 頁

青空文庫

綾瀬へはこれから真っ直ぐだ。わたしはこれから右へ切れるから、ここで別れるとしよう」

理右衛門は俄かに右へ切れて、田圃路を足早に立ち去った。

その逃げるような態度といい、さっきからの口ぶりといい、一種の疑念が長三郎の胸に湧いたので、彼も見えがくれに理右衛門のあとを尾けて行こうと思った。しかも直ぐに歩き出しては、相手に覚られる虞れがあるので、暫くやり過ごしてからの事にしようと思案して、立ち停まって其処らを見まわすと、路ばたに小さい掛茶屋があった。

花見の時節ももう近づいたので、ここらの農家の者が急拵えの店を作ったらしいが、まだ商売を始めているわけではなく、ほんの型ばかりの小屋になっている。その小屋に隠れるつもりで長三郎は何ごころなく踏み込むと、そこに立てかけてある古い葭簀のかげから人が現われた。

不意におどろかされて長三郎は思わず立ちすくむと、人は若い女で、かのお冬であった。時も時、場所も場所、ここでお冬に出逢って、長三郎は又おどろかされた。彼は無言で屹と睨んでいると、お冬は無遠慮に摺り寄って来た。その片眼は異様にかがやいていた。

「若旦那。又ここでお目にかかりました」