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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(六)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(六)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,831 字 · 396 頁

青空文庫

かぜでも引かないうちに、早くお引き揚げになった方が、よろしゅうございましょう」

彼はこう云い捨てて、軽く会釈したままで立ち去ったが、長三郎はまだ其処にたたずんでいた。

拍子木の音は坂を横ぎって、向う横町の方へだんだんに遠くなるのを聞きながら、長三郎は考えた。藤助の話によると、白い蝶は毎晩ここらに出ると限ったわけでも無いと云う。それは自分も覚悟して来たのであるが、ここらを毎晩廻っている火の番がそう云う以上、めったに姿を見せない蝶をたずねて、いつまでも寒い風のなかに徘徊しているのは、なんだかばかばかしいように思われて来た。

「いっそ小父さんに相談して来ようか」

彼は引っ返そうとして、また躊躇した。折角ここまで踏み出して来ながら、まだ碌々の探索もしないで引っ返しては気怯れがしたようにでも思われるかも知れない。長三郎は意気地なしであると、黒沼の小父さんに笑われるのも残念である。ともかく、もう少し歩いてみた上の事だと、長三郎は思い直して又あるき出したが、闇のなかには彼の眼をさえぎる物もなかった。

まだ五ツ半(午後九時)を過ぎまいと思われるのに、ここらの屋敷町はみな眠ってしまったように鎮まっていた。