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こがらしのさかぐらから

木枯の酒倉から

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《木枯の酒倉から(こがらしのさかぐらから)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,163 字 · 22 頁

青空文庫

俺はもう行者の長談義の中途から全く退屈していたので、どうにと勝手になるようになれと、酒倉の壁にもたれて天井の蜘蛛の巣を見ていたが、酔ったせえでもあるのだろうか、ぼやけた蝋燭は数限りない陰々を投げて狂おしく八方へ舞いめぐり、さらでも朦朧とした俺の視界を漠然の中へ引きずりこんでしまうのだ。俺は木枯の響がヒュウとなって酒倉をくるくると駈けめぐるのをきいていたが――そのうちにみんな忘れて何もきこえなくなってしまった。

それからものの五分もじっとそんな風にしていたのだろうか、ふと引く様な物音に我にかえると、それは嘗て耳に馴れない笛の音で唄うように鳴りひびいてくるものだから何事であろうかと目で探ると――俺は危くうわあっ! と呻えて酒樽に縋りつく所だった。一匹のコブラが頸のところをまんまるく膨ませ、立つように泳ぐように屈伸しながら、ぼやけた蝋燭にいやらしいその影を騒がせているのだ。それは音にきく熱国の蛇使いであろうか、白い回教徒頭巾を頭にまいた銅色の男が酒樽の片影に坐を組んで太く節くれて光沢のある笛を吹いている……

わあわあ、余は酔ったんだあ。断じて俺は酔っちまったぞ。