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すだま

木魂

夢野 久作

線上閱讀夢野 久作《木魂(すだま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,668 字 · 46 頁

青空文庫

彼のすぐ横には白ペンキ塗の信号柱が、白地に黒線の這入った横木を傾けて、下り列車が近付いている事を暗示していたが、しかし人影らしいものはどこにも見当らなかった。ただ彼のみすぼらしい姿を左右から挟んだ、高い高い堀割の上半分に、傾いた冬の日がアカアカと照り映えているその又上に、鋼鉄色の澄み切った空がズーッと線路の向うの、山の向う側まで傾き蔽うているばかりであった。

そんなような景色を見まわしているうちに彼は、ゆくりなくも彼の子供時代からの体験を思い出していた。

……もしや今のは自分の魂が、自分を呼んだのではあるまいか。……お父さん……と呼んだように思ったのは、自分の聞き違いではなかったろうか……。

といったような考えを一瞬間、頭の中に廻転させながら、キョロキョロとそこいらを見まわしていた。……が、やがてその視線がフッと左手の堀割の高い高い一角に止まると、彼は又もハッとばかり固くなってしまった。

彼の頭の上を遥かに圧して切り立っている堀割の西側には、更にモウ一段高く、国道沿いの堤があった。その堤の上に最前から突立って見下していたらしい小さな、黒い人影が見えたが、彼の顔がその方向に向き直ると間もなく、その小さい影はモウ一度、一生懸命の甲高い声で呼びかけた。